音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

すきなひとはいますか

ぼくのよこでずっと笑っていてください


と彼は言った


けれどそれにそれほど重要な意味があると気付かなかった彼女は


わたしはいつも笑ってるように見えるけど


あなたの見ていないところで泣いているのよ

と答えた


そうじゃないんだ、きみの笑顔が僕のたからものなんだ


新緑のブナの木間から漏れる光が2人の歩いている小径を照らしている


ふたりはしばらくだまって歩いた


ブナの森がふたりを良いほうへと後押しして

いる


彼女の名前は、一ッ橋みゆき


四年前に他界した米田侯爵は彼女の叔父にあたる