音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

淳平

淳平は卒業後、某商船大学に入学した。 淳平の偏差値は高い部類であったのでがむしゃらに受験勉強した記憶はない。 淳平はヨット部に入った。映画、裕次郎の「太平洋ひとりぼっち」や アランドロンの「太陽がいっぱい」に憧れたのである。 淳平は色白痩せ型…

先生

「許されるものと許されないものを細分化して校則規約に明記するべきだとおもいませんか」 風紀委員の顧問をしている杉谷先生は詩子先生に言った。 「悪事を起こした生徒に君が悪いと決めつけるのってどうなのかしら。悪魔が生徒を操った、わたしはそう考え…

先生

他愛もない日常からうまれる愛に美徳があるとすれば、永遠や未来にはデリカシーなど存在しない。 杉谷先生の親父は漁師だった。 「かにまる」という漁船で漁に出てイカやタコなどを水揚げし生計を立てていた。 杉谷先生は 「海の日に海の家の浜茶屋でかにま…

先生

淳平が学校を休んだので、その日の夕方詩子先生は淳平の家を慰問した。 玄関を開けると母親が出てきた、淳平は自室で寝ているというので、ふたりで色々話すことができた。「先生、先日はご迷惑をおかけしてすみません、あれ以来息子は朝がきても泥のように眠…

先生

河童に脚を引っ張られた少年。 淳平の名前は学校中に広まった。 淳平はもともと痩せ型であまり血色の良い方ではなかったが、事件後はいちだんと顔色が青白くみえた。 淳平が通り過ぎたあとの廊下はしっとり水で濡れていると噂するものまでいた。閑地の池の周…

先生

陽炎が熱風のなかで揺れていた。 夜になっても風は止んだままで、気温は下がらず微熱がからだのなかに残っていた。 みすゞは今までに3回気絶したことがある。 なにがどうなったのか、そのあいだわたしがどうなっていたか、みすゞ自信にはわからなかった。 ま…

先生

山口みすゞは国語の先生である杉谷先生がすきだった。 ゲジ眉先生、一部男子生徒の間で先生のことをそうよんでいた。みすゞはそんな身体の一部を悪あだ名で呼ぶクラスメートが許せなかった。 杉谷先生は時間があれば職員室で広辞苑を熟読していた。その姿は…

足元から雨が降った

七夕の夜、足元から雨が降った 地面から水が滲みて濡れていくのを 足裏で感じていた。 空気は渇いていたが空に星は見えなかった。 天上からきこえる鼓笛隊のリズムは全く空気を 震撼させずに直に胸に響いてきた。 指先の血管が葉脈みたいに膨らんで 手の平を…

金曜のおはよう

金曜日の男は金星人であった。 月曜から木曜までの四人の男と同じ電車で通勤していた。 われわれが宇宙人であることは、 第三者からみて識別することはできなかった。 それぞれのふるさとの星には、 それぞれの男をまっているひとがいた。 先頭車両のドアが…

木曜梅雨の合間に

甘噛みする犬へ。 犬よおまえは何故甘噛み(本気でガブと噛まずに調整)するのだ。 おまえをそんな我儘な犬に育てたつもりはない。 飼い主である紳士は弱りも五十を超え、 新聞を八つ折りにして読んでいる。 犬に与える餌と同じ食事を食している(おもにダシ…

水曜地獄級

川村貞雄は栄養失調であった、栄養不足を解消するため、 醗酵したものの食事を主にした。 納豆、麹味噌、酒、ヨーグルトなどを 器に溶いて混ぜた。 生鮮食品にはない曖昧な味がした。 酵母の精製に没頭、嘔吐を繰り返しながら研究を続け周りから気持ち悪がら…