音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

先生

淳平が学校を休んだので、その日の夕方詩子先生は淳平の家を慰問した。
玄関を開けると母親が出てきた、淳平は自室で寝ているというので、ふたりで色々話すことができた。「先生、先日はご迷惑をおかけしてすみません、あれ以来息子は朝がきても泥のように眠っているんですよ」
しばらくして淳平は泥人形のような寝起き顔で目をキョロキョロさせながら二階から降りてきた。それから3人で西瓜を食べた。淳平は先生の隣りに座った。淳平は西瓜を食べながら先生の匂いをかいでいた。淳平は先生の甘い匂いが好きだった。先生はそれから、ほのかな桃のような香りを家の中に残して帰っていった。
詩子先生が淳平の家を出て露地を曲がった所で、さあっと風が吹いてきた。街路樹の柳の木が音を立てて揺れ、詩子先生の長い髪が靡いて乱れた。わたしおもいきって髪切ろうかな、詩子先生はおもった。


詩子先生が髪をばっさり切った翌日の朝、職員室に入ると杉谷先生がいきなり声をかけてきた。

「詩子先生、おもいきりいめちぇんしましたね」

「あ、はい」
詩子先生は何か言おうとしたが言葉はそれ以上でてこなかった。

杉谷先生は目がすこしハートになっていた。髪を切っただけでこれだけ女性はかわるのかとおもった。