音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

先生



河童に脚を引っ張られた少年。
淳平の名前は学校中に広まった。
淳平はもともと痩せ型であまり血色の良い方ではなかったが、事件後はいちだんと顔色が青白くみえた。
淳平が通り過ぎたあとの廊下はしっとり水で濡れていると噂するものまでいた。閑地の池の周りには柵が張り巡らされ立ち入り禁止の看板が立った。看板には河童出没注意と落書きしてあった。

淳平の担任は詩子先生であった。
詩子先生は若いときに母をなくし、剣道一筋、学生時代はただがむしゃらに剣道に打ち込んだ。
大学では日本一となり世間に女流剣士の名を馳せた時期もあったが、気がついたら結婚適齢期をとうに過ぎていた。
この季節になると詩子先生の家の庭には毎年桔梗の花が咲いた。
別に花に興味はなく花を育てているわけでもなかったが夏の茶花である薄紫の桔梗の花が好きだった。