先生
陽炎が熱風のなかで揺れていた。
夜になっても風は止んだままで、気温は下がらず微熱がからだのなかに残っていた。
みすゞは今までに3回気絶したことがある。
なにがどうなったのか、そのあいだわたしがどうなっていたか、みすゞ自信にはわからなかった。
まさしく3回目の気絶が今日の地震であり、
目覚めたとき目の前にあった杉谷先生の大きな顔と濃い眉をみすゞは鮮明に憶えていた。
みすゞは頬を真っ赤にして先生に言った。
「いま、わたし死んでたの?先生」
「死んだと思いました、死んだふりをしてたんだね。」
杉谷先生が答えた。
「先生、じつはいまヘンな夢をみていたの。外に着ていく服がなくて、はだかのまま街を歩いてた、
わたし恥ずかしくて泣きそうだった。」
「そうなんだ、先生も似たような夢をみたことがある、体育会に履いていくズックが下駄箱になくて、
しかたなく素足で獣のように四つんばいで校庭を走ってる夢だった。」
タマ子はわたしのことを、わざと死んだふりをした確信犯とからかったが、
みすゞは先生と少し話しができたことが何より嬉しかった。
校舎のよこには雑木林があり、そこはうっそうとした閑地で、夜は鴉の寝ぐらになっていた。
雑木林のなかには池があった。
今日そこにザリガニを捕まえにいった男子生徒が池に落ちた。
生徒は夕刻を過ぎても見つからず学校中が騒然となっている中、
生徒はずぶ濡れになって自力で教室に戻ってきた。
河童に脚を引っ張られたとのことだったが、先生はどうしてもそれが生徒の狂言だと疑った。