ママから聞いた話
それはもともとなんの根拠もない話なのですが
わたしがママから聞いた話によると
わたしは100gあたり350円で売られていたらしいのです
といってもわたしが
八百屋の秤にのせられていたという話ではありません
そのころママはすでに美術館のまえの
ひとつのアートシーンのようにブロンズ色をした肖像になっていました
わたしのなかにあるママの印象は
石膏板の中から面影が浮かんでは消えていく夢を
幾度かみるだけで不確かなものになっていました
でもママはそんな喜びや悲しみという感情といいますか
わたしの顔から笑みが消えかけていたとき
このままではいけないと わたしに剣道を習わせました
裸足になってアスファルトのうえを走ると
とても気持ちがよかったし
袴姿のままトイレにこもって
3時間ほど本を読むのが癖になってきました
いつもそこには
むきだしになったままの わたしがいました
このままでいいのか、このままじゃダメなのか
なんて なんどくりかえして思ってみても
なんの解決にもならないのと同じで
それは、わたしが
おんなのこに体を触られると
鳥肌がたつくらい、イヤな感覚と同じでした
クリスマスがくるとクリスマスなんて早く
終わっちゃえばいいのよっておもってたし
バレンタインデーのときは、チョコレートなんかより
干し葡萄のほうがずっとおいしいのに、なんておもってました
それが原因かどうかはわかりませんが
わたしはいまでもよく駅のホームで電車がくるまでのあいだ
バッグのなかに携帯してある干し葡萄をつまみ喰いしています
わたしのなまえは
詩子と書いて うたこ
ウタコリン♪もしくはウタリンコ♪
というニックネームで呼ばれています