音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

老婆

老婆の吐く息はマーシャルのアンプの匂いがする

朽ちて焼け落ちた真空管の匂いがする

殺風景な病院の待合室は老婆のお気に入りの場所 大声を出さなくとも以心伝心 他愛なく親しく

焦髪を振り乱しながら 煙管に火薬を詰める その仕草は人間の単純な最も人間らしく生きた証 蒸気機関のように全身から煙を吐く

東から昇ったまるい月が脳天の真上に来た
あたまにいっぱい皺くちゃになって詰まったメモリーがフラッシュバックされ それが一本の白い線のような矢になって昇ってゆく
さあ月に帰ろう