音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

飼育係りの日記 2

 
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わたしが、「るんこちゃんよねおなかすいてるの?」
 
ときくと
 
「おやつの時間にでるのは、ニボシや干しブドウばかり
 
 わたしのすきなバナナやマンゴーがたべたい」
 
というので、わたしはリュックのなかからバナナを
 
とりだし、「先生には内緒よ」 といってバナナをあげた
 
 「これるん子ちゃんが描いた絵でしょ、とても上手ね」
 
と死んだってことは内緒にしていった。
 
るん子は、おいしそうにバナナを食べながら、
 
 「わたしのしんせきのサーカスおじさんがいってた。
 
 サーカス小屋で、その象がうまれたとき、
 
 みんなおどろいてたって。
 
 みたこともない、うすみずいろの象だって。
 
 で、おかあさんといっしょにみにいったの。
 
 とても、かわいかった。いまもかわいいけどね。
 
 この子がちいさいときからしってるの、
 
 だからじょうずに絵がかけるのよ。
 
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 「そのおじさんはどこにいるの」 ときくとるん子は、
 
 「しらない」 と首をふりながらいった。
 
わたしはすぐ、るん子の家を訪ね、母親に
 
おじさんと象のことを伺った。
 
その人は音信はないが、噂によると
 
見世物小屋の団長をしていて、どこかにそのアジト
 
があるらしいが、その場所は知らないということだった。
 
その象が生れたとき、これはお金になるとか、
 
そんなこといってたらしく、うまれた象が大きくなるまで
 
動物園でせわをしてもらうってことで、母親の象とは
 
うまれてすぐ別々にくらすことになったらしい。
 
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やっぱり死骸が消えるなんてありっこない、そう思った。
 
獣医師と厩務員かもしれない、
 
園長に内緒で彼を連れ出したんだ。
 
 
園長に電話をいれると、獣医師と厩務員は
 
午後から姿を眩ましたらしく、園長も彼らのことを
 
キツネに騙された顔をしながら確信犯だときめていた。
 
 
彼には、おかあさんとこどもの、
 
幸せな時間なんて、ほんのこれっぽちもなかったんだ
 
わたしの命に代えて、この子をさがす
 
その決意をさらに強くした。
 
 
きのうの朝、だれか彼を目撃した人はいないかと思い、
 
翌朝わたしは、動物園沿いの道を早朝ジョギングしてる
 
人はいないか探した。
 
すると朝もやの向こうから、ひりょろひりょろに痩せた
 
兄ちゃんが走ってきた。
 
 「ジョギング中すみません。きのうの朝、その時間、
 
  この辺でこどもの象が車かなんかにのせられて、
 
  連れて行かれるのをみませんでしたか?」
 
って声を思い切ってかけた。すると兄ちゃんは
 
  「ああ、昨日の朝、大きなクレーン車の荷台に、
 
   鉄の檻にはいった象が、この道を西にむかって
 
   進んでいったよ、象は涙目だった、
 
   仔牛が連れられていくドナドナドナの歌の
 
  ようだった。たしかこの先は大きな森の方角です」
 
と答えた。
 
 
私は動物園の車を借りて西にむかった。
 
園長から何かあったらGPSの携帯でかけてこい
 
と言われた。
 
 
ずっと進んでいくと道はだんだん細くなり、
 
砂利道なって、車がやっと通れるくらい細くなってきた。
 
まわりがだんだん大きな木にかこまれてきた。
 
メタセコイヤの大木がたくさんそびえたっていて
 
その下にいるわたしの小ささを感じた。
 
わたしは、ここがどこだかわからなくなった。
 
関係者以外侵入禁止の看板がでてきて、車を降りた。
 
結界みたいなのが、現代でいうセコムみたいなのが
 
その先の森一体にかかっているようだった
 
磁場をだす有刺鉄線でおおわれていて、
 
その奥の森の林では何が行われているかは、
 
全くわからなかった。
 
まるでサティアンの森のようだとおもった。
 
 
 
わたしには、大学時代から付き合っているひとがいた。
 
彼は、気象台関係の関連会社で、
 
磁力と電磁波に掛かる研究をしていた。
 
彼とは同じ大学に通っていた。彼は文理学専攻、
 
私は、生理学といっても、動物生理学であって、
 
狐の生態や、眠らない猿の研究に没頭した。
 
 
彼への、結婚の返事。
 
それはタイムリミットをとうに過ぎていて、
 
さいきんはたまにメールでのやりとりがあるだけだった。
 
彼の家には数回いったことがあった、
 
居間に一年中コタツがだしっぱなしになっていたり、
 
2階の洗濯干し場にアジの干物が干してあったこと
 
そんな些細なことが大切な返事をきめかねている
 
1つの理由でもあった。
 
さすがにそのイエスかノーかの返事は
 
メールでだせなかった。
 
いま西の森にむかって、こういういきさつで。。
 
今ここにいます。結界がかかっていて先に進めない。。
 
という内容のメールを彼に送った。