音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

男のくせに

男のくせに二重まぶたになりたかった

大人になったら勝手に二重まぶたになった

まぶたばかりいじってたからまぶたにシワができたからだろう

男のくせにお料理が好きだ お酒は飲まないけど

男のくせにお掃除が好きだ 内側から滲み出てくるカビが憎い 死ね


男のくせに花の名前をいっぱい知ってる
玄関を開けたら花の香りがする家

男のくせに男が好きだ
付き合ってほしい男がいる
彼は男のくせにトイレで泣いていた

胃の中

となりに座った紳士が語りかけてきた

胃のなかのものをお見せしましょう

キリキリする胃のウエっとな胃液をお見せしましょう

逆流する胃の嘔吐物をお吐きしましょう

胃の粘膜の乾燥した固形物をお吐きしまし


あ いやそんな そんな 困ります はい
ぼくは腰を浮かして立ち去ろうとした

わたくしは雨予報の日は胃がしくしく泣いて ぐぢぐちと愚痴る男なもんで

勘弁してください

紳士はかなり酔うているように見えた

胃の痛み分かち合えた気がしてスッキリした

老婆

老婆の吐く息はマーシャルのアンプの匂いがする

朽ちて焼け落ちた真空管の匂いがする

殺風景な病院の待合室は老婆のお気に入りの場所 大声を出さなくとも以心伝心 他愛なく親しく

焦髪を振り乱しながら 煙管に火薬を詰める その仕草は人間の単純な最も人間らしく生きた証 蒸気機関のように全身から煙を吐く

東から昇ったまるい月が脳天の真上に来た
あたまにいっぱい皺くちゃになって詰まったメモリーがフラッシュバックされ それが一本の白い線のような矢になって昇ってゆく
さあ月に帰ろう

あおざかな

あなたはあおざかなをなまで食べれますか

なまさばをなまで食べれますか

なまさんまの内臓をなまで食べれますか
きっとおなかが痛くなるでしょう

あおざかなを食べてあたまがよくなりました からだがじょうぶになりました 釣り好きな彼女ができました 休日にはボートを漕いであおざかなを釣りに行きます

あおざかなの死んだような弾力のある一点を見つめてる目 やっぱりあなたに惚れたわたしが馬鹿でした

もうあえないのって辛くないですか

最後の手段 あおざかなを電子レンジに入れたら爆発してしまいました

母指球 地球のへそ 無重力

暗闇生活 偏西風 部屋に入り込むすきま風

最後に すき って伝えてから さよならしたい

きみ との距離 15センチ もうすこしで 手の届きそうな 位置

ふんばれ母指球 地球のへそを おなかに入れて

やば 男子ズボンのチャックのなかが発狂寸前