音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

腹びれのあるバンドウイルカ

しろい砂浜とおおきな椰子の木と

エメラルドの海と水平線に沈む真っ赤な太陽

ここは太鼓と笛の音が夕闇にこだまする島




ものごごろついたときから

おとうさんはいませんでした

おかあさんのすむ島から離れ

独り暮らしをはじめてずいぶん月日がたったので

もうその島がどこにあったのかも、今ではおぼえていません





イルカとの共存生活は、慣れないうちは、とまどいましたが

もうずいぶん友達もでき、顔見知りなのに

そっぽむいて素通りするイルカもいなくなりました

「ヘイ、チョンボス、そのヘアースタイルいつもバッチシ決まってるね。。」

みんなこんな気さくに声かけてくれます

ぼくは頭のてっぺんから爪の先まで、

しゃきっとスマート&スポーティーに決まってないと

その1日が憂鬱でしかたないのです

でも、友達のポアンナは競泳水着も身につけないまま

午前中の遠泳のトライアスロン授業にでかけていきました

お昼のお弁当の時間をすこしまわったとき、

ポアンナが疲れた顔で海から帰ってきました

「ポアンナ、きょうの遠泳ポイントはどこだった?もしや200カイリ沖の離れ孤島?」

「やぁチョンポス、きょうのシルビア先生は、いきなりのハード調教でさ。。まいったよ、

 とちゅうで、息継ぎ失敗してさぁ、鼻から水はいってきちゃって溺れかけたんだ。。」

「ばかだな、競泳水着つけていかないから、水の抵抗うけて余計体力消耗するんだよ。。」

ポアンナとはこの島の防衛組織の切り込み隊をぼくといっしょに志願しています

切り込み隊というのは防衛組織のいわゆる精鋭チームで、選抜されるのには

きびしい特訓をうけたうえで、最終の入団テストにパスしなければいけないのです。


ぼくたちの授業は体育実習だけではありません 聴き取り の授業があるのです

ぼくらには、ふだんの話し言葉とは別に、超音波で

モールス信号の暗号のような音で通信する能力があるのです

昼下がりの眠い時間、シルビア先生のかん高い声が教室に響きます

「みんな、、もっと耳を澄ましなさい!。。先生の送った電波、、ノートにかいてごらん!

 ポアンナ、まだなにも書いてないじゃないの。。耳掃除したほうがいいんじゃない?」

ポアンナは聴き取りが苦手なことは先生も十分承知なんですが、わざとに集中攻撃します

いっぽう、ぼくは聴き取りが生まれつきかどうだかしらないけど、

みんなが、聴こえない電波まで、キャッチしてしまうようで、

それが便利なのか、どうだかわかりませんが、この授業は余裕なのです

「このつぎは、大海原で実習テストだからね、それまでに耳、鍛えておくのよ。」

そういってシルビア先生はきょうの授業を終えました