音楽を呼びさますもの

恋文を書くために埋め尽くされた練習ノート

淳平

その日の夜は霧が出た。

明け方になるとあたりは白い靄につつまれ眠っていた仲間の眠りを深くした。

相太と淳平は眠れずに甲板に腰かけていた。

「淳平、静かな海だなそれにしても視界が悪い、見知らぬ国の陸地が迫っているような錯覚になる」

「先輩、幽霊船がでそうで怖いです」

淳平は魔よけの鈴を手のひらのなかに握りしめた

「うちは機屋なんだ。昼夜を問わず織り機の音が鳴り響いてる、音がやむのは盆と正月だけ
俺はその静寂な数日間が好きなんだ、まるできょうのこの海のような静けさのようで」

「あのぉ聞いたんですが先輩の彼女はそこで住み込みではたらいでいるj女工ってのはまじですか」

彼女の名前は帆乃夏とかいてほのかと読んだ。
相太はほのかがつくった握り飯をだしてきて淳平にひとつわたした。

「おまえにはわからないだろ、肺の中に心臓がはいっていくような感覚を、恋っていうんだ」

握り飯は塩がきいておいしかった。

「それって息ができずに苦しそう、恋って辛いんですか」

淳平は美男子であったがまだ異性と付き合ったとこがなかった。

夜明まえmミルク色の空は水平線とのさかいを曖昧にした。

東の空が絵画的なのは朝日が光輪を帯びてみえているからであろう。